前節「現役時代と廃線後の三井東圧化学専用線 (新線ルート) (1)」では、三井東圧化学専用線の概要及び、廃線跡となった三井東圧化学専用線の「新茂原貨物駅〜谷島踏切 〜 腰当踏切」間について紹介しました。本節では、残りの区間について紹介いたします。
三井東圧化学専用線の起点から775m地点に位置していた「新川代踏切」の廃線跡はアスファルトで埋められていましたが、停止線は残っていました。踏切跡付近の川代橋側には「埋設物位置票」が設置されており、そこには「関東天然瓦斯開発 (株)」が管理する天然ガスのパイプライン (導管) がコンクリートで覆われて埋設されています。2023年 (令和5年) 現在、埋設物位置票は新川代橋側に移されています。
かつて、三井東圧化学 (株) (旧称は東洋高圧工業) 千葉工業所では、原料となる天然ガスの安定確保を目指し、大多喜・茂原地区を中心に天然ガスの開発を行っていた関東天然瓦斯開発 (都市ガスの供給は子会社の大多喜ガスが担当) を子会社化していた時期がありました。(詳細は、前章「東洋高圧工業 (三井東圧化学) 千葉工業所の誕生」の「マル5計画と安定供給戦略、東洋高圧工業と関東天然瓦斯開発の天然ガス開発事業」で解説)
天然ガスの主要導管は、三井東圧化学専用線と同様に、阿久川沿いに埋設されていたと思われます。かつて阿久川堤防に面していた千葉工業所 (茂原工場) の西側には天然ガスタンクが設置されていました。(詳細は、前章「三井東圧化学千葉工業所 (茂原工場) の黎明期から縮小期まで (1)」の「三井東圧化学 (株) 千葉工業所の最盛期」を参照)
阿久川の支流にはコンクリート橋梁 (RC橋梁) が架かっています。県道293号茂原環状線の歩道からは、橋脚や防護柵なども観察できます。
この区間でも県道293号茂原環状線の歩道からは、バラスト (砕石) や土留めが見ることができます。2022年5月 (令和4年) にはこの近辺から左手にある西谷川の水門付近まで、工事用重機の搬入のため通路が設けられ、歩道や車道の境界ブロックの一部やバラストが撤去されましたが、10月に工事は完了し、現在は元の状態 (Googleマップ) に復元されています。
この周辺から、先述のテールアルメ工法で築かれた盛土による路盤が阿久川堤防沿いに西谷踏切まで510メートル続いており、盛土の表面を覆うコンクリート製の壁面パネル (コンクリートスキン) の組み合わせや笠コンクリート上に設置された防護柵が見られます。(テールアルメ工法については、前節「最新土木技術「テールアルメ工法」が導入された、三井東圧化学専用線の付替え工事」で解説)
阿久川から分岐している西谷川にもコンクリート橋梁 (RC橋梁) が架けられています。また、県道293号茂原環状線には栄橋 (Googleマップ) が架けられています。
この区間は、水平に1m進むごとに垂直方向に8cmの高低差が生じる、8‰ (パーミル) の緩やかな勾配区間 (角度に換算すると約0.46度) となっていました。新茂原駅貨物施設 (新茂原貨物駅) から三井東圧化学へ向かう場合、西谷踏切を通過すると、8‰の下り坂となり、その後8‰の上り坂となり、第4種踏切の手前で水平 (Level) になるという勾配標が設置されていました。
ちなみに、茂原駅、新茂原駅、および新茂原貨物駅が所属している外房線の区間では、大網駅から土気駅の区間では最大25‰ (1km進むごとに25mの高低差、角度は約1.43度) の急勾配と、半径200mほどの急カーブがある難所となっています。かつて、三井東圧化学専用線の所管駅であった茂原駅や新茂原貨物駅を発着する貨物列車は、この区間の重量制約のため通過できませんでした。そのため、茂原駅や新茂原貨物駅を発着する貨物列車は、東金線を経由して総武本線から総武線の新小岩操車場 (現在の新小岩信号場) へ向かう迂回ルートとなっていました。(詳細については、付録「茂原駅で貨物入替作業で活躍した、入替機関車 (スイッチャー)」で解説)
三井東圧化学専用線の起点から1.55km地点に位置していた「西谷踏切」の廃線跡は、新川代踏切同様にアスファルトで埋められていました。上記のイメージ図のように、以前は阿久川堤防に踏切信号機が1機設置され、両面に3灯灯器があり、表側は主信号灯器で裏側の西谷橋側は補助信号灯器となっており、停止線も存在していたと記憶しています。(踏切信号機については、前節「現役時代と廃線後の三井東圧化学専用線」で解説) 当時の阿久川堤防は、三井東圧化学専用線の付け替え工事期間中は重機や盛土材料の搬入路として使用されましたが、工事が終了すると対岸は既に遊歩道として整備されていたため、そのまま残されていました。また、線路が茂原工業高校に隣接していたことから、総延長約157mの防音壁が設置され、付近には8‰の下り勾配標が設置されていました。
2000年 (平成12年) 11月に訪れた際、三井東圧化学専用線沿いの阿久川堤防に遊歩道を整備する工事が進行中で、新茂原貨物駅方の西谷踏切跡から新川代踏切跡の遊歩道はほぼ完成していました。さらに、三井東圧化学千葉工業所 (現在の三井化学茂原分工場) 方の西谷踏切跡から第4種踏切までの工事が開始されていました。
新茂原貨物駅側にも新川代踏切跡同様に「埋設物位置票」が設置されており、天然ガスのパイプライン (導管) 埋設部はコンクリートで覆われていました。
2023年 (令和5年) 現在、茂原工業高校は2006年 (平成18年) に近隣の茂原農業高校と合併し、「茂原樟陽高校」となり、旧茂原工業高校の敷地は新たな企業誘致用地となり、校舎は全て取り壊され、更地となりました。高校側の歩道部分が廃線跡の上まで延長され、ポール状の車止めが設置されました。新茂原貨物駅側の埋設物位置票付近の境界ブロックも撤去され、舗装も一新されたことで、天然ガスの導管を埋設しているコンクリート部分がアスファルトで覆われ、西谷踏切の痕跡は分かりづらくなっています。
なお、校舎が取り壊されたことで、テールアルメ工法による盛土表面を覆う壁面パネル (コンクリートスキン) やはね出し式の擁壁が観察できるようになりました。今後、企業誘致の状況により、再び建物に隠れることも考えられます。(テールアルメ工法や跳ね出し式の擁壁については、前節「最新土木技術「テールアルメ工法」が導入された、三井東圧化学専用線の付替え工事」で解説)
西谷踏切跡と同様に、茂原農業高校の演習農場内の小道の先でも阿久川遊歩道の建設が進行中でした。その結果、かつての線路跡には盛土がされ、阿久川堤防への工事用車両などが利用するための傾斜路として整備されました。工事関係者の許可を得て、傾斜路から線路跡の撮影を行いました。傾斜路から新茂原貨物駅方を見ると、右側の防護柵付近には、距離標や上り勾配標、曲線標らしいものが点在していました。2023年 (令和5年) 現在、この場所は沢井製薬 (株) 関東工場 (元は三井製薬工業千葉工場) の敷地内 (Googleマップ) となっており、小道は消失しています。
三井東圧化学専用線の起点から2.4km地点に位置していた「第4種踏切」の廃線跡も、他の踏切同様にアスファルトで埋められていますが、周辺には8‰の下り勾配標や防護柵、路盤のバラストが残っていました。第4種踏切は警報機や遮断器のないタイプの踏切で、踏切警標のみが設置されていたと思われます。また、第4種踏切のすぐ横には貨物列車用のゲートが設置されていました。
訪問した際、茂原農業高校演習農場と三井製薬工業千葉工場の間には未だに小道が残っており、その小道を進んで三井東圧化学専用線 (新線ルート) 上の第4種踏切を渡り、かつては三井東圧化学専用線 (旧線ルート) の鉄道橋で、新線ルートへの付け替え後、人道橋に転換された阿久川橋を渡ることで、茂原駅東口に繋がる遊歩道を利用することができました。(旧線ルートについては、「三井東圧化学専用線 (茂原駅〜三井東圧化学千葉工業所間) [旧ルート]」をご覧ください)
2023年 (令和5年) 現在、沢井製薬 (株) 関東工場 (元は三井製薬工業千葉工場) の拡張に伴い、貨物列車用のゲートは撤去されました。防護柵と第4種踏切跡から阿久川遊歩道に繋がる小道の一部の痕跡が残されています。
阿久川橋と連絡する小道自体は、沢井製薬 (株) 関東工場と三井化学 (株) 茂原分工場 (旧称は三井東圧化学千葉工業所) の境界付近の南側に移設され、かつての構内軌道跡に沿ってカーブする形で新たな小道 (Googleマップ) が整備されました。なお、構内軌道の現役時代の様子については、ミニコーナー「三井東圧化学専用線の三井東圧化学千葉工業所内の構内軌道」で詳しく紹介しています。
おわりに このセクションをもちまして、特別企画『工業都市"茂原"と三井東圧化学専用線のすべて』(全20章) は完結となります。ここまでご覧いただき、ありがとうございました。2000年 (平成12年) 9月に当ウェブサイトを開設して以来、当初の予定では『廃線となった鉄道 - 新茂原貨物駅と三井化学専用線』というタイトルで近日公開予定としていましたが、24年の歳月を経て、ようやく公開することができました。ぜひ感想などがございましたら、当サイト内の掲示板にお寄せいただければ、それは私にとって大きな励みとなります。 ブログ「Break on Through 〜音楽と乗り物〜」の「[HP更新] 新コンテンツ「工業都市"茂原"と三井東圧化学専用線のすべて」を公開しました!」では、このコンテンツの制作動機などについても記事に綴っています。 また、当企画コーナーを作成するにあたり、貴重な写真画像や動画を提供いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。また、転載許可もいただき、誠にありがとうございました。
引き続き、Nゲージ入門、JR外房線ガイド、洋楽・クラブミュージックの名盤CDガイドなど、趣味の総合ポータルサイト『外房雑記録』(https://sotobou.web.fc2.com/) をぜひご覧いただければ幸いです。
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